今日の一冊は、第二次世界大戦末期にドイツ占領下のオランダで、ナチスによるユダヤ人迫害の中を生きたユダヤ人少女、アンネ・フランクが書き記した日記、「アンネの日記」です。
あまりにも有名な本ですが、実際に読んだという方は意外に少ないんじゃないでしょうか。
『アンネの日記 増補新訂版』
著者: アンネ・フランク
訳者: 深町眞理子
出版: 文春文庫
フランク一家は、ユダヤ人の強制収容が本格化した1942年から1944年までの2年以上もの間、父オットーが経営する会社の建物内に作られた隠し部屋の中で、潜伏生活を経験しました。
この間のアンネは、12歳から15歳という若さでした。
彼女は日記帳の中に、「隠れ家」での生活の中で考えたこと、生活の様子、体験したことなどを、克明に 赤裸々に書き残しました。
悲しいことに、アンネたちの隠れ家は1944年8月にゲシュタポ(ドイツの秘密警察)によって発見され、一家は全員逮捕、収容所送りにされます。
そしてアンネは、ポーランドの収容所の劣悪な環境の中で、病により15歳の若さで命を落としました。
そして戦争終結後、一家でただ一人収容所から生還した父・オットーによって、この日記は世の中に広く出版されることになったのです。
この本を読んで一番印象的だったのは、意外なことに、ナチス占領下におけるユダヤ人の生活の悲惨さというよりも、アンネのたくましさ・賢さ・強さでした。
私は「アンネの日記」とは、幼くか弱い少女であるアンネが、自分たちにふりかかる不幸と無力さを嘆き悲しむ内容の日記だとイメージしていました。
ひたすら悲劇的なトーンに貫かれていると想像していましたが、実際読んだ印象は相当違いました。
アンネは身の回りで起こる物事を鋭く観察して、それに対する自分なりの考えを持とうとします。
その積極的な姿勢は、「これが本当に中学生か?」と疑いたくなるほどです。
特にアンネは、考えや思いを的確な言葉に落とし込む能力に、ものすごく秀でていると思います。まさに大人顔負けです。
思春期特有の恋愛感情や大人への反発など、言葉にしづらい気持ちも、「ああ、わかるなあ!」と感じられる表現でつづっています。
アンネは、成長したらジャーナリストや小説家になりたかったそうです。彼女が生きていたら、きっとこうした道で優れた成果を残したんじゃないかと想像してしまいます。
10代の自分は、アンネほど世の中に対するヒリヒリとした問題意識はなかったですが、それでもちょっとした事で傷ついたり、自信過剰に陥ったり、今から考えれば浮き沈みの激しい毎日だったなあと思います。
日記を読みながら、「そうだよな、自分も10代の頃は似たこと思っていたな」と、過去に思いをはせてしまいました。
アンネは苦しい生活の中で時に落ち込むことはあっても、常に未来への前向きな展望を失わず、自信と誇りを持ち、困難をユーモアで笑い飛ばします。
潜伏生活の初期こそ、自分の感情や気持ちをコントロールしたり、他人との折り合いをつけることに苦労したアンネですが、後半になると見違えるほど人間的に成熟していきます。その様子には感動すら覚えました。
そして極限生活を送るアンネたちを危険を冒してかくまい、献身的に支えたオランダ人たちの存在にも、強く胸を打たれました。
この日記はナチス占領下の悲劇の一断面であると同時に、人間の強さ・尊厳・優しさといったものに関して希望を感じさせてくれる記録でもあると感じました。
私に子どもが生まれて以来、歴史上の(そして今も起こっている)幾多の醜い争いや殺し合いは、なぜ起こってしまたんだろう、どうすれば回避できたんだろう、ということについて、これまでなかったほど強い関心を持つようになりました。
だいぶ気の早い話なのですが、私は自分が死ぬときには、「未来は今よりも良くなる」という確信、少なくとも希望を持っていたいと思っています。
そのためにも、ホロコーストのような過去の悲劇について、もっと知りたい、考えなくてはいけない・・・
今夜は、太郎の寝顔を見ながらそんなことを思っています。