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無料化でも話題の迫真の医療マンガ 『ブラックジャックによろしく』 by 佐藤秀峰

先月、アマゾンが出している電子書籍端末「Kindle Paperwhite」を購入して以来、ともかくキンドルを使い倒してみようということで、読書はもっぱらキンドルでやっています。2月以降、紙の本を買うことがほとんど無くなってしまいました。

電子書籍化されていない本、教科書、資料的に何度も参照する本、手元に置いておきたい愛着を感じる本は、今後も買い続けますが、正直言って文庫や新書はよほどの事がない限り電子書籍で良いか、と思ってしまってます。

音楽業界で暴れた電子化の波が出版業界に押し寄せてきたいま、どのようにデジタル化の流れに乗って(または対抗して)いくか、どの出版社も著作者も頭を悩ませていると思います。

そんな中、非常にユニークが取り組みをしている漫画家がいます。

「海猿」「ブラックジャックによろしく」など、ドラマ化・映画化もされたヒット作をもつ、佐藤秀峰氏です。

かなり話題になったのでご存じの方も多いんじゃないかと思いますが、佐藤氏はなんと彼の代表作の一つである「ブラックジャックによろしく」を、ネット上で無償公開したのです。

さらに、この作品の著作権を行使せず、あらゆる二次使用を許可することを宣言したのです。

この作品は、漫画専用の、漫画onWeb をはじめとする各種の電子書籍サービスでダウンロードすることができますが、今年の2月28日にアマゾンでもダウンロードできるようになったということで、さっそくキンドルで読んでみました。

全13巻、もちろん無料です!

 

『ブラックジャックによろしく』 (kindle版)
佐藤秀峰

 

ちなみに、文字データのみの電子書籍に比べてマンガは画像データなので非常に重いらしく、一度に全13巻をKindle Paperwhite(内蔵メモリ 約2GB) におさまりませんでした。

 

物語は、大学病院で研修医となった主人公・斉藤英二郎が、さまざまな経験を通じて成長していくというもの。

がむしゃらに突き進む主人公が、とにかく涙や鼻水をよく垂らすということで有名な作品です(笑)

実は私、この作品にあまり期待していませんでした。

連載開始当初から、出版社がやたらと話題作としてまつり上げるような宣伝をしていたし、電子書籍の無料配信なんていうとんでもないこともやっているので、「うさん臭い作品」という印象があったんです^^

ところが実際に読んでみて、見事にヤラレました!

読み始めたら止まらず、2日で全巻読破してしまいました。

主人公の純粋さと、そこからくる暴走っぷりには、「おいおい!」と感じてしまう場面もあります。でも、指導医や患者さんとのやり取り1つ1つが息づまるほどリアルで、濃密な人間ドラマから目が離せません。胸につきささる言葉、涙なしには読めない場面も、たくさんありました。

作品の中では、現在の医療制度の問題点もいろいろと指摘されています。病院の数が多過ぎて効率が悪い日本の医療サービス、教授を頂点とするピラミッド型の派閥(医局)の弊害・・・。

悪い面を多少誇張しているところがあるかもしれませんが、私がこれまで存在すら知らなかった問題をいろいろと知ることができました。

ウケ狙いの突飛な話などでは全然ありませんでした。無料だからではなく、純粋におススメしたい作品です。

 

ところで、なぜ作者の佐藤氏は、電子書籍の無償化、二次使用フリー化を決断したんでしょうか?

その点に関してはこちらに興味深いインタビュー記事があります。

佐藤氏は、現状の著作権で儲けるビジネスに、ある種に限界を感じたそうです。

「ブラックジャックによろしく」ほどの話題作でも、最終巻は重版がかからなかったそうで、一度出版した作品から継続的に印税収入を得ることが難しいとのこと。

それならば、電子書籍というデジタルデータによって、今までと何か違うビジネスモデルができる可能性があるのではないか。今はまだ具体的にどうすればいいかまではわからないが、無償公開、二次使用フリー化によって、新しい可能性をラディカルに問うてみたい。そういうことなんだと思います。

その心意気はわかりますが、二次使用許諾の権利を握っていれば、ドラマやその他のタイアップで収入を得る道が開けます。またそれによってマンガの売上増も見込めるでしょう。この可能性を事実上放棄するなんて、あまりに大胆すぎます。

でも、これほど挑発的なアクションをしなければ、新しいアイデアや動きというのは生み出せないものなのかもしれませんね。私には到底マネできません(^^;

 

ちなみに、いま携帯電話の接続率が第一位になったことを猛烈にアピールしているソフトバンクが、この作品をパロディーした「ホワイトジャックによろしく」 という期間限定ページを作っています。

これも二次創作フリーであることを利用してソフトバンク勝手に作ったものなのか、はたまた作者にお金を払って正式に手を組んだプロジェクトなのか・・・ちょっと気になります。

 

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