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華々しく活躍した男たちの生々しい葛藤の記録: 『28年目のハーフタイム』 by 金子達人

さあいよいよFIFAワールドカップブラジル大会が開幕します!

今日の帰りの電車でも、となりに座った兄ちゃん2人組がものすごい大声&早口でサッカー談義をしているのを聞いて、「ああ、いよいよだなあ」と私の中でも気分が盛り上がってきました。

私は熱血サポーターというほどではないですけど20年来のサッカーファン。本当に楽しみです。

初戦のブラジル対クロアチアは、今からわずか数時間後、明日6月13日(金)の日本時間5時にキックオフです。

そして日本の初戦は15日(日)午前10時のコートジボアール戦。個人的にはセレッソの若手、山口蛍に大注目してます!

 

さて、ワールドカップ気分が盛り上がってきた今週に読んだ、サッカー関連の本を1冊紹介します。

実はもう10年くらい前に買ったまま読まずにいた本ですが、本棚から引っ張り出してきました。

 

28年目のハーフタイム
金子達人・著
文春文庫

 

まず、ひと言で感想をいいます。

 

名著ですわ、コレ!

 

あまりに面白すぎて、そして胸に響きすぎて、一気に読んでしまいました。なぜもっと早く読まなかったのかと後悔。

 

この本は、1996年に実に28年ぶりとなるオリンピック出場を果たした 当時のサッカー日本代表に関する、迫真のドキュメンタリーです。

 

1996年のアトランタオリンピックで、日本代表は世界最強のブラジル代表と初戦を戦い、あろうことか1対0で勝利(!)を収めました。

このことは私も今だによく覚えています。用事があってテレビで観戦することができなかったんですが、まさかの出来事に日本中大騒ぎで、にわかにサッカー熱が燃え上がったと記憶しています。

日本は結局、グループリーグで2勝1敗と大健闘したものの、得失点差によりグループリーグで敗退となりました。

当時、何も事情を知らなかった私は 「日本がブラジルに勝って2勝1敗か。強くなったなあ。日本代表、全員一丸となって、よくがんばった!!」 ってな感じで、無邪気に感心していました。

 

ところが、この一見華々しい日本代表の活躍の裏には、選手間や選手・監督間でのすさまじい軋轢(あつれき)があったのです。

そして2戦目にあたるナイジェリア戦のハーフタイムにおけるある出来事をきっかけに、チームの結束はもはや修復不可能なまでに崩壊してしまいました。

本のタイトルである「28年目のハーフタイム」というのは、ここから来ています。

著者はこの舞台裏の「真相」に、丹念な取材をもとにして迫っています。

 

オリンピック日本代表の強化に非協力的で結果ばかり求める上層部、ワールドカップ招致活動のために負けられないという重圧、そして初の国際試合の緊張。その中で、西野朗監督は睡眠薬なしで眠れない極限状況に追い込まれていました。

一方、サッカーの報道技術に成熟していないマスコミは、得点をあげたフォワードの選手の活躍ばかり華々しく取り上げました。その結果 浮足立ってしまった攻撃陣、そしてそれを面白くなく思う守備陣。その間に生じたささやかなしこりが次第に増幅していき、お互いへの不信感をうみました。

そんな中、必然的に起こった、ある出来事・・・。

この本の最初のあたりを読んでいくと、この騒動の大きな原因を作ったのは「生意気な」中田や「調子に乗った」前園であるかのように思えるのですが、後の章で彼らなりの理屈や事情があったことが丁寧に描かれています。

この本の登場人物の中で日本の勝利を望まない人なんて、間違いなく1人もいなかったろうと思います。それなのにこんな不幸な状況に陥ってしまったなんて。

誰も悪くないのに行き違ってしまうコミュニケーションのやるせなさ、前例がほとんどない中で世界を相手に戦うことの想像を絶する重圧、そういったものが圧倒的なリアリティで胸に迫って来て、思わず涙が出てしまいました。

 

このコミュニケーション不全の苦しみというのは、まったく他人事ではないですね。サッカーに限らず、どんな組織でも普通に起こり得る話です。私も大小あわせれば、仕事でも家庭でも何度こんな経験をしたことかわかりません。

互いに違う考えを持つ人間の集団を、極限状態の中でまとめあげるのがいかに難しいか。それを生々しく教えてくれるこの本は、へたなビジネス書の組織論よりもよほど役に立つんじゃないでしょうか。

まあ、役立つうんぬん以前に、とにかく人間ドラマとして最高の面白さ。ほんとに、おすすめです!

 

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