新米パパの小さな発見手帳

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こんなに具体的で説得力ある分析は初めて 『日本型モノづくりの敗戦』

      2014/11/12

予想外の面白さに、寝る間を惜しんで読んだ

日本の製造業がヤバい! テレビや半導体が韓国・中国勢にボロ負け! ・・・こんなことが言われるようになってもうずいぶん長く経ちますよね。

ここ1~2年は、各社とも事業戦略の見直しが進み、かなり円安が進んできたこともあって「製造業が復活しつつある」なんてことも言われます。

でも、薄型テレビや携帯電話・パソコン、そして半導体に関しては、日本メーカーはすっかり存在感を失ったまま、アップルや韓国・中国メーカーに負け続けてます。

こうした分野での日本メーカーの「敗戦」に関しては、経営コンサルタントとか経済評論家といった人たちによって語りつくされてきた感があります。

そんな中、最近たまたま読んだのがこの本です:

 


日本型モノづくりの敗戦 ~零戦・半導体・テレビ
湯之上 隆 著
文春文庫
2013年10月18日出版

 

「ああ、また経営コンサルか誰かが、日本のものづくりをコケにした本ね~。中身はだいたい想像つくな~」と、斜に構えて買ったこの本。

でも実際に読んでみると、思わず夢中になって1日で読んでしまいました。

 

こんなに生々しいこと書いて大丈夫?

実は著者の湯之上氏は、もともと某大手電機メーカーで半導体の研究開発に力を注いだ技術者です。

かつて、半導体の輝かしい未来を信じて仕事をする中で、半導体分野が次第に低迷していく様子を最前線で目の当たりにしてきたそうです。

その後技術者をやめましたが、コンサルティングや調査・評論というかたちで半導体や電機業界と関わり続けてきました。

 

そんな湯之上氏が書いたこの本の最大の特徴は、とにかく内容が具体的・赤裸々であること!

やはり専門である半導体の話が半分以上を占めるわけですが、その半導体ビジネスの分析では、まず半導体の製造方法の説明から始まります。

一見、そんな細かい話は必要ないようにも思えますが、これがその後の説明に深く関わってくるんです。

湯之上氏は、製造技術の基礎をふまえたうえで、そのどこが競争力のポイントなのか、そのポイントが時代とともにどう移り変わったか、日本メーカーがそれにどうやって乗り遅れていったかを解説しています。

最初の解説があるからこそ、後の説明の説得力がググッと増してます。

また、盛り込まれている数値や現場でのエピソードが、とにかく具体的でリアル! 正直、「ここまで書いちゃって大丈夫か?」という余計な心配をしてしまうほどでした(^^;

たとえば、著者がエルピーダで経験した事業統合後の混乱ぶり。

90年代に調子を崩してきた日本の電機メーカーは半導体事業を次々と統合していきました。エルピーダも、NECと日立が半導体(DRAM)事業を統合してできた会社です。

そのエルピーダで、各社ごとの技術者のカルチャーの違いによって合理的な行動・決断ができず泥沼にはまっていく様子が、具体的な現場のトラブルなどをまじえて書かれています。

私のようにメーカーに勤める技術者なら、共感を覚える話がわんさか出てきて、身につまされること請け合いです。

 

車載半導体トップ企業のルネサスが儲からない謎

この本を読んで「なるほど」と思ったことをもう1つ。それはルネサスの苦戦に関する分析です。

ルネサスといえば、自動車用半導体で世界シェア4割というトップシェアを握るメーカーです。しかし、まったく儲けが出ずに存亡の危機に立たされており、今でも人員整理を続けています。

なぜいま好調な自動車業界でトップシェアの企業が、全くもうからないのか??

このもっともな疑問に対して、湯之上氏はいくつかの理由をあげています。

 

完成車メーカーの下に一次、二次・・・の部品メーカーがぶら下がる自動車業界の中で、ルネサスはかなり下層の部品メーカーにあたります。このため上位のメーカーに対する発言力が弱く、製品の販売価格を低く抑えざるを得なくなりがちです。

それに加えて、自動車業界の安全性に関する厳しい要求が大きなコスト要因になっており、利益を圧迫しているそうです。

 

(自動車部品)メーカーが、ルネサス那珂工場にECUの製造を依頼する際、(中略)原則として、装置やレシピの変更を許さないという。

ルネサスとしては、他製品との兼ね合いや、他工場との生産計画の調整、または、微細化の推進などのために、製造ラインを変更したい、設備を変更したい、プロセスを変更したいと思っても、発注者である上位メーカーがそれを許可しないのである。

その背景には、もし装置を変更したり、プロセスを変更したりして不良が出たら、そして自動車事故が起きたら、いったい誰が責任を取るのか、という極めて保守的な(日本的な?)思想が存在している。

 

本書の半導体製造技術の解説で書かれていますが、半導体は一般に誤解されているように「製造装置を買えば簡単に作れるもの」ではなく、実は多くの製造工程の微妙なすり合わせが要求される製品です。

だから、装置や作り方少しでも変えると、仕上がりが変わってしまう可能性がある。それを安全に厳しい自動車メーカー、部品メーカーは恐れているというわけです。

また、ルネサスのとある技術者からきいた話も紹介しています:

 

クルマメーカーは、100万分の1以下どころか、「不良ゼロ」を要求するというのである。ECUが1個でも動作不良を起こせば人が死ぬ、だから、不良は厳密にゼロでなくてはならない、とのことである。

この思想はわからなくはない。しかし、実現不可能である。大量生産した工業製品がすべて壊れないということはあり得ない。  このような思想は、あくまで理想論であって、工業製品の仕様にするべきではない

トヨタやデンソーが要求する「不良ゼロ」は、原発を推進してきた政府や東京電力などが言い続けてきた「原発は絶対に安全」という話と同類ではないかと思う。

 

さらには、その技術者のこんな発言を引用しています。

 

「どの半導体メーカーも、ECUをつくりたがらない。しかし、ルネサス那珂工場は、ラインの稼働率を上げるために、利益の出ないECUですらつくらざるを得なかった。そうして、あっちからもこっちからも、ECUの製造を押し付けられてしまった……」

 

私は、「利益が見込める自動車メーカーを戦略的に攻めた結果、高いシェアを獲得したのだ」と思っていましたが、まさか「ECUの製造を押し付けられてしまった」という見方があるとは・・・。

自動車メーカーの方からすればいろいろと反論や言い分があるでしょう。でも本書の記述を読んでいくと、なかなか説得力のある話に聞こえます。

 

では、どうすればよいのか?

このような、下手に高品質な製品を作れてしまうがゆえに それを追及して苦境に陥ってしまうという日本の悪い癖を、湯之上氏は他のいくつかの例とともに、手厳しく批判しています。

性能を追求して量産性をおろそかにし、やがて米軍の大量の戦闘機に敗れた太平洋戦争のゼロ戦しかり。

大型コンピュータ時代に求められた高信頼性の追求を続け、PC時代になって安価な製品を量産する韓国勢に完敗したDRAMしかり。

 

では、これから日本の半導体、そしてものづくりはどうしたら良いんでしょうか?

湯之上氏は、イノベーションとは「発明と市場との新結合」「爆発的に普及した技術や製品」のことを言うのだとし、その意味でのイノベーションが必要であると言います。

世の中には、イノベーションという言葉を狭い意味での「技術革新」と解釈する風潮(湯之上氏は日経新聞を名指ししてますが)がありますが、そのことを著者は手厳しく批判しています。

発明と市場を結びつけるためには、どこにもない技術をゼロから作ることは必ずしも必要ありません(もちろんそれも重要でしょうが)。

湯之上氏は、既存の技術の模倣、そして組み合わせを考えることが非常に重要だと指摘します。ただし、模倣に関してはこんな風に付け加えています。

 

模倣が猿真似に終わらないようにするためには、模倣した製品の設計思想や脈絡を深く理解する必要がある。つまり、さまざまな部品が、目に見えない相互作用も含めて全体システムにどのように組み込まれているか、そのアーキテクチャまで解読する・・・

 

また、新しい市場を作り出す、あるいは見出すマーケティングの視点が欠かせないとも指摘しています。

結論だけ言うと平板な主張に聞こえますが、著者はこれに関して1つ、おもしろい例(たとえ話?)をしているので、紹介します。

外国人が日本に来て驚くことの1つがウォシュレットだとよく言われますよね。

欧米ではウォシュレットがまだほとんど普及していませんが、それは経済力が無くて買えないからでも、格別の社会的・宗教的な障害があるわけでもありません。

 

にもかかわらずウォシュレットがあまり普及していないということは、「お尻を洗いたい」という文化がないからに他ならない。

逆に言えば、「お尻を洗いたい」という文化が広まりさえすれば、ウォシュレットの普及は難しくない。

ここに、日本の電機・半導体産業が新市場をつくり出すヒントがあるのではないだろうか?

 

この話は、私の腹の中にストンと落ちるものを感じました。

そう。モノが売れていない本質的な原因は、機能や技術や品質の不足とは限らないのですね。

 

 

 

本書の半分以上は著者の専門である半導体業界の話なんですが、一つの分野を深く突き詰めた結果、逆に全てのものづくりビジネスに通じる分析になっていると思います。

正直、製造業に携わる人すべての人に一読をおすすめしたいほど、興味深い一冊です。

 

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