パソコン・ネット 最近読んだ本

インターネットが作るぜい弱性への警鐘・・・W.H.ダビドゥ「つながりすぎた世界」

突然ですが、中学生のころの私は、「コンピュータの仕事だけはしたくない」などと思っていました。

それは、コンピュータをあまりに発展させてしまうと、やがてコンピュータが人間に反乱を起こしたりする可能性があると思ったからです(笑)

もちろんこれは、「ターミネーター2」とか「2001年宇宙の旅」とかに影響されまくりの、浅くて感覚的な考えだったんですけどね

 

今の私は、こうしてほぼ毎日ブログを書いたり、ツィッターをやったり(読むの専門だけど)、オンラインで買い物したり、道に迷えば携帯で地図を検索したりと、ネットを利用しまくってます。

インターネットがない生活は、もはや考えられません。

ただ、あらゆることが情報化され、それが世の中のあらゆる部分を支配し、予想もつかない速度で変化を引き起こして行く現状は、やはり怖いと思ってしまう事があります。(ターミネーターができたらどうしようとは思わなくなりましたが。笑)

IT業界の最先端にいる人たちは、パソコンやネットが切り開く未来を、とてもポジティブにとらえる方が多いと思いますが、私は臆病者のせいか、そこまで無邪気に楽観的にはなれない性格のようです。

何もかもが光の速度で処理されるこの世の中で、いったいどのように生きていけばいいのか、インターネットに支配されずに主導権をもって使いこなすにはどうすればいいか。

この問いは、ぼんやりとですが、常に私の頭の中に横たわっています。

 

さて、そんな中、とても気になるタイトルの本を見つけたので、思わず買ってしまいました。

 

書名: つながり過ぎた世界 インターネットが拡げる「思考感染」にどう立ち向かうか
著者: ウィリアム・H・ダビドゥ
訳者: 酒井泰介
出版: ダイヤモンド社

著者のダビドウ氏は、インテル、HPなどの情報デバイスメーカーを経て、IT業界の企業経営者、ベンチャーキャピタリストとして活躍してきた人物です。

言ってみればIT業界の最先端の人間ですよね。その彼が、インターネットの弊害を批判するような本を書いたわけだから、なおいっそう興味深いです。

 

ダビドゥ氏は、人やモノや情報が互いに極端に強く結びついた社会の状況を、「過剰結合状態(overconnected)」と呼んでいます。

そして、過剰結合状態では社会が不安定でぜい弱になり、わずかな変化が予想もしない大問題を引き起こす危険性が高いと著者は指摘します。

その過剰結合の最たる例こそ、インターネットであらゆる情報が結びついた現在の社会であり、それが本書のテーマになっています。

ただ本書は、19世紀に鉄道が敷かれたことで産業構造が急激に変化したシカゴの例から解き起こすなど、ネットに限らず歴史上の「過剰結合」の例を扱っており、そのあたりの着想が面白いと思いました。

 

ダビドゥ氏は、2008年のリーマンショックに始まった金融危機があれほどの大問題になったのは、インターネットが原因だと指摘します。

金融危機のそもそもの原因は、リスクを適正に評価せずに行なわれた投機的な取引であり、これまでの歴史上でも何度か繰り返されてきたことです。

ですが、情報を過剰に結びつけるインターネットのおかげで、金融市場の値動きや風評が一瞬に伝わってしまったために問題が深刻化したという著者の指摘には、私もまったく同感です。

 

ダビドゥ氏は、過剰結合状態の不安定さの原因として、「正のフィードバック」「思考感染(thought contagation)」というキーワードをあげています。

「正のフィードバック」というのは、工学系の人がよく使う言葉ですが、ある変化が起こったときにその変化をどんどん増幅する効果を言います。

たとえば 「通勤時間に電車が遅れる→電車が混む→乗り降りに時間がかかる→いっそう遅れる」 のようなものですね。・・・この例じゃわかりにくいか ^^;

「思考感染」のほうは著者の造語だと思いますが、風評やデマがインターネット上を「噂が噂をよぶ」かたちであっという間に拡大・増幅する(正のフィードバックですね)ことを指します。

その結果として、パニック的な動きを引き起こしやすくなるわけですね。

この本では、まさに私が日ごろ漠然と不安・不満に感じていることを、豊富な例をあげて指摘してくれていて、ポンとひざを打ちたくなる思いでした。

 

じゃあ、過剰結合状態というのが破滅的な問題を起こすヤバいものだとすれば、それを回避するにはどうすればいいか? そこが重要ですよね。

その点についてダビドゥ氏は、 「正のフィードバックを抑制する仕組みを作る」 「事故が起きにくいように、また起こっても被害が抑えられるように、より強固なシステムを作る」 などの原則をあげています。

ただ、対策が原則論に終始していて、具体性に欠けるように感じました。その点だけは少々残念。

ですが、インターネットに対して、あまり語られてこなかった視点からの問題提起の書として、とても興味深く読んだ一冊でした。

 

ちなみに原著が出版されたのは2011年1月。東日本大震災の前です。

本の中には、複雑すぎるシステムの危険性の例として、アメリカのスリーマイル島の原発事故をあげています。

それよりはるかに深刻なあの原発事故を見た著者は、いったいどのような考えを持つのか聞いてみたいなと、ふと思いました。

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