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【Book】中谷巌『資本主義はなぜ自壊したのか』

私は学生のころ、経済というものにまったく関心も知識もありませんでした。

そして、「金のことをとやかく話すのは卑しいことだ」という、なんとも偏った感覚を持っていました(^^;

就職活動をしたにも関わらずその程度の認識だったんですから、今から思えばなんとも世間知らずだったと思います。

 

ですが、入った会社の同期に経営学を専攻していたやつがいて、「経済のことを知りたいなら、まずこれ読んでみるといいよ」と本を貸してくれたんです。

それが、今日紹介する本の著者である中谷巌氏が書いた「痛快!経済学」でした。当時、割とヒットした経済の入門書で、私もタイトルだけは聞いたことがありました。

これが、読んでみると予想に反してすごく面白かった!

経済というのがどんなものかが、やっとわかった気になれました。

そして、「マーケット(市場)での取引は、世の中の需要と供給を効率よくマッチングさせるための手段であって、よりよい世の中を作るための仕組みなのだ」ということがわかり、「マーケット=投機=悪」とういのが、あまりに偏った考えだということを知りました。

私にとって、中谷氏は経済に目を開かせてくれた恩人のような存在です(ちと大げさだけど)。

 

さて、その著者が、2008年の世界金融危機後に書いたのがこの本です:

『資本主義はなぜ自壊したのか』
著者: 中谷巌
出版: 集英社文庫

この本は出版当時、ちょっとした話題になったのを覚えています。

なぜかというと・・・

著者はもともと、「マーケットでの取引に全てまかせろ」「規制を緩和しろ」「政府の仕事は民間に移せ」という、いわゆる市場原理主義的な考え方で有名な経済学者でした。

しかし、2008年の金融危機をきっかけに、グローバル資本主義が持つ危険性を痛感し、自分が主張してきた経済改革が偏ったものであったと深く反省したそうです。

そして間もなく出版されたこの本は、「懺悔(ざんげ)の書」というセンセーショナルなキャッチコピーが付けられ、話題になったのです。

 

この本で、中谷氏は決して資本主義という仕組みを全否定しているわけではありません。

資本主義の大枠は肯定しています。

しかし中谷氏が「グローバル資本主義」と呼ぶもの、つまり世界中であらゆる取引を自由化し、勝者と敗者の2極分化が起こっても構わないとする極端な考え方(いまの世の中はそちらに傾いている)に対しては、改めるべきだと強く主張しています。

「懺悔の書」というキャッチから、ぶっ飛んだ内容の本を想像していましたが、実際の議論は思った以上に冷静で納得できる内容のものでした。

 

面白かったのは、中谷氏が、日本が歴史的に持っている「異質なものをうまく受け入れ、取り混む姿勢」などが、これからの経済を考えるカギとなるとして、ポジテイブに評価していることです。

単に経済学や経済データを議論するだけではなく、歴史や宗教の議論を通して経済のあるべき姿を見いだそうとしている点が興味深いです。

一般に、ある仕組みに問題があれば、その枠組みの外からの再検討が必要です。

いまの経済制度に問題があるとすれば、経済の枠組みの外から点検することが必要ですよね。だから、この著者の歴史的・文化的なアプローチは意義深いものだと思います。

 

最後に、この本で私が一番「なるほど」と思ったことだけ、書いておきます。

資本主義がリベラルな社会体制を担保していたのは、ローカル資本主義に
おいてであり、グローバル資本主義ではこの限りでない。なぜなら、労働者
と消費者が同一人物である必要がないからである。
※原文のままではありません。

 

これは鋭いなと思いました。

ある地域や国など、限定された範囲で自由化された経済(ローカル資本主義の経済)を考えると、企業(経営者)側は労働者にあまりムチャなことをできません(勝手にクビを切るとか、賃金を極端に低く抑えるとかですね)

なぜなら、労働者は消費者でもあるため、労働者がお金をもらえないと企業が生産した商品の買い手がいなくなり、結局経営側も困るからです。

しかし世界中で国の枠組みを超えた自由化が徹底されると(グローバル資本主義)、もはや労働者=消費者とは限りません。

たとえば日本の企業がバングラデシュの工場でものを作って稼いでも、それを買うのはバングラデシュの人ではなく先進国の人、ということが普通に起こります。

すると、バングラデシュの人が困窮しても、日本の企業の売上に影響がありません。なぜなら顧客はバングラデシュ人じゃないからです。

かくして、労働者が不当に扱われ、国家や地域間の格差が拡大・固定される危険性が出てきます。

これはかなり極端な例ではありますが、実際、グローバル資本主義にはこうしたリスクがつきまとうことは認識する必要があると思います。

(それに、国どうしがケンカをしたら自由貿易が成り立つわけがないから、安全保障の意味でもグローバル資本主義への過信は危険だと思います)

 

この本はリーマンショックの余波がおさまらない頃に書かれたこともあって、この先どうなるかわからないという危機感が前面に出ている印象があります。

書かれている情報や状況に少し古さを感じる部分もありますが、本書の基本的な主張は今なお有効だと思います。

たまには経済の大きな動きについて考えるのも面白いものだなと思いました。

 

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