この間立ち寄った本屋で、講談社文庫の「ムーミンフェア」というものをやっていました。
講談社文庫のフェア対象書籍から2冊以上を買うと、その場で「ムーミンスタンプ」がもらえるというものです。
特に何か買いたい本があったわけではないんですが、「ミーミンスタンプをもらったら 太郎が喜ぶかな」と思ってその場で2冊買ってしまいました。
1冊は、「ムーミン谷の彗星」。(トーベ・ヤンソンのムーミンシリーズは、講談社文庫から9冊くらい出てます)
そしてもう1冊がこちらです。
『ちいさいモモちゃん』
作者: 松谷みよ子
出版: 講談社文庫
「この本、昔読んだ!」っていう人も多いんじゃないでしょうか?
この文庫本は、今から40年以上も前に出版された児童書「ちいさいモモちゃん」、その続編の「モモちゃんとプー」の2冊をまとめたものです。
私が小さい頃、うちにも「ちいさいモモちゃん」の本があって、何度か読んだのを覚えてます。
内容はほとんど忘れていたんですが、1つだけ覚えているエピソードがありました。
モモちゃんが近所のおばあちゃんに会ったときの話。おばあちゃんが入れ歯を外していて、いつもと違う顔になっていることにモモちゃんはびっくり。あわてて家に帰ったモモちゃんが、「ママの『歯ぁは』もとれちゃう?」と母親に心配そうに聞くのでした。このエピソードだけは、強烈に覚えていました(笑)
というわけで、今回新鮮な気持ちで再度してみたんですが、いちばん感じたのは「あれ、こんなにファンタジー要素がたくさん出てくる話だったっけ?」ということでした。
お話はモモちゃんが生まれた日から始まります。
その日、モモちゃんの家に、カレー粉をしょった野菜たち、ガム、そしてソフトクリームが、次々にお祝いにやってきます。「カレーを作って食べさせてあげるよ」などと言う野菜たちに、お母さんは「だめ、だめ。まだモモちゃんは食べれません」と言って追い返します。
このほかにも、おし入れの中でねずみの葬式行列に会ったり、海がモモちゃんとじゃんけんをしたり、帰りが遅くなったお母さんに腹を立てたモモちゃんたちが電車で雲の上へのぼっていったり・・・。日常の中にファンタジーがするりと自然に忍び込んでいるんです。
これについて、最後の解説で作家の角田光代さんがズバリ核心を突くことを書いていて、強く共感しました。
主旨はこんな感じだと思います。
子どものころの私たちは、まわりの世界を幼い頭で受け止め理解しようと、一生けんめい想像の翼をひろげていたんではないか。
このお話のように、世界は現実と幻想とが入り混じった 不思議なものではなかったか。
それは、分別のついた大人から見ると、いい加減な絵空事と切り捨てることもできるかもしれないけれど、ある種の豊かさやみずみずしさにあふれたものではなかったか。
20年以上ぶりに読んだモモちゃんの話は、子どもが見る世界がどんなものかを「かつての子どもたち」に再び思い出させてくれる、新鮮な輝きに満ちた物語でした。
2011年に講談社文庫からこの新版の「モモちゃん」を出すにあたって、出版社は「今回は20歳以上の大人に読んで欲しい」と考えたそうです。いま子育てまっ最中の方、子育てを終えた方など、特におもしろく読めるんじゃないかなと思います。子どものときにと大人のときとで、違う印象を与えてくれるでしょう。
余談っぽくなりますけど、実はモモちゃんのお母さんは共働きです。モモちゃんは「赤ちゃんの家」、つまり保育園に預けられているんですね。そんな話だったとは、全然記憶にありませんでした。
「ちいさいモモちゃん」の初版が出たのはなんと1964年(!) 当時は、父親はモーレツサラリーマンで深夜まで会社で働き、母親は専業主婦として家庭を守る、そういう家族像が標準とされた時代です。
その時代に共働きの核家族を描くというのは、当時としては時代の変化を敏感に見越した、現代的な視点だったのではないかと思います。