iPS細胞の生みの親である山中伸弥教授が、今年のノーベル医学・生理学賞を受賞し、つい先日、授賞式がありましたね。
日本人がノーベル賞を受賞すると、書店には必ず「ノーベル賞」コーナーが出現しますが、今回は私が立ち寄った本屋には5~6冊程度の「山中本」がたくさん平積みされていました。
基本的にミーハー(この言葉、古いか?^^;)な私は、流行に乗っかるかたちで1冊読んでみました。
どの本がいいかなあと思いましたが、やっぱり本人の著書がいいなということで、これにしました。
『「大発見」の思考法』 iPS細胞vs素粒子
著者: 山中伸弥、益川敏英
出版: 文春新書
この本は、山中氏と、2008年ノーベル物理学賞受賞者の益川氏との対談を収めた一冊です。
ちなみに出版されたのは2011年の1月と、だいぶ(もちろん山中氏のノーベル賞受賞よりも)前です。
お二人の「大発見」までの道のりをたどりながら、その過程で考えたこと、苦労したこと、科学に対する思いなどを、自由闊達に語り合う内容です。
私はこういう対談形式の読み物って大好きなんですよね。違う考え方の人どうしが生み出す化学反応のようなものがあるし、何よりライブ感や緊張感があって面白い。
本書には物理や化学の専門的な話も一部入っていますが、一般の人向けに語られたものなので、ビジネスや日常生活にも役立つヒントがあちらこちらに散りばめられています。とても面白い一冊でした。
さて、私の心に特に響いたのは、お目当ての山中氏よりむしろ益川氏の発言で(笑)、こんな内容のものでした。
自分の面白いと思えることを、真正面からやってください。
ただしその時は、目標を高く持ち、行動は着実なところから
自分の好きなことを突き詰めろ。目標を大きく持て。実現性とかを考え過ぎて小さくまとまるな。
これはあちこちで言われることだと思います。
ただ、「なるほど」と思ったのがその次の部分で、「行動は着実なところから」です。
具体的な行動は手の届くところ、実現性が高いと思えるところから始めていく。いきなり一発ホームラン、ウルトラCで大目標に到達するのは無理がある。
このことを、益川氏は「眼高手低」と表現しています。通常、「評論はうまいがは実作は下手だ」というネガティブな意味の四字熟語らしいのですが、これを益川氏は先ほど引用した発言のように違った視点でとらえていて、研究者の卵の若者たちに伝えているそうです
いちばんダメなのは、目標を設定してもそれを意識することなしに、
ちょこまかちょこまか動くことです。
「自分の目標はこれだ」と設定したら、それを常に意識し、自分がその目標に
少しでも近づいているのかチェックしなければいけない。
また、そもそもの目標が正しいものなのかも、常に検証していかなければ
いけません
益川氏は、具体的なアクションを行う中で、最初の目標が誤りだったと気づくことがあるかもしれないが、それは問題ないといいます。目標が誤っていたことがわかったから、適切な目標に切り替えればいい。
しかし、そもそも目標を定めなかったり、定めただけで満足してあとは日々の仕事に追われていつの間にか目標を忘れる、といったことは最悪だということです。それだと、目標設定が正しかったかどうかもわからなくなり、焦点が定まらない努力をずっと続け、右往左往するだけで終わる可能性が高いからです。
もちろん、うまく行くと思ってやったことが失敗に終わることはよくあることだと、益川氏も強く認めています。むしろ研究にはそれが不可欠だとしています。「目標指向」=「試行錯誤の否定」という意味ではまったくありません。明確な目標設定があって始めて、その失敗の位置づけがクリアになり、今後に生きてくる。単なる気分的な試行錯誤は、「私、努力してるかも!」「新しいことに果敢に挑戦してるかも!」という自己満足で終わる可能性が高い。
間違いに気付いた時は、どの時点から間違ったのかということをきちんと検証し
それを常に反芻する必要があります。そういう作業の繰り返しを通じて、
「自分は今、何をすべきなのか」や、「この局面ではどういうことが必要と
されるのか」といったことを分析する力が身についてくるのです。
これらの発言は、ビジネスについてもピタリと当てはまる格言じゃないでしょうか。
私はズバリ言って、目標を決めてそれに向けて全行動を最適化する、ということが苦手な性格です。このブログの話題の発散ぶりを見て頂ければ、わかるかもしれません(苦笑)
でも社会人になって、上司から益川氏とまったく同じことを口すっぱく言われました。今はようやく、多少なりとも目的指向の仕事のしかたを身につけてきたかなと思います。
ただ、性格が性格なので、油断するとすぐに「その場の気分で何となく行動」ということになってしまいます。だから、「眼高手低」という言葉には、改めて背筋を正されたような思いがします。