音楽

コロナ時代のやるせない気持ちに寄り添う一曲
『はなれている』by ドレスコーズ

新型コロナウイルスが夏休みを直撃して、楽しみにしていた旅行や遊びの予定がつぶれてガッカリした方も多いんじゃないでしょうか。

私も旅行や帰省を断念したり、申し込んでいたフルマラソンの大会が中止になったりして、盛り上がらないまま夏が過ぎてしまったなあと切ない気持ちです。

さすがに秋以降は、ワクチン接種も相当進んで、落ち着いてくるとは思いますが・・・

 

そんなわけで、今回も新型コロナの時代を鋭く描いた一曲を紹介します。

志磨遼平のソロ・プロジェクト、ドレスコーズが 6月にリリースしたアルバム『バイエル』に収束されている『はなれている』です。

 

 

はなればなれじゃないのに はなれている

こんなに近くにいるのに 近づけない

 

今は ふれないで

今は 話さないで

はなれたままで そこにいて

 

いやあ、私はこれ聴いて、冗談抜きに泣きました(^^;

この上なくシンプルなピアノ、メロディー、そして言葉。それなのに、コロナの時期を生きている私たちの抱える複雑な想いを、なんでこんなに的確に歌ってくれているんだろう。

コロナの時代を象徴する名曲としては、昨年の紅白でも披露された星野源の『うちで踊ろう』が有名ですよね。

星野源が最終的に「踊ろう」といったポジティブなメッセージを投げかけているのに比べて、こちらは苦しさや落ち込む気持ちを抱える人にひたすら共感し、寄り添う歌になっています。

「おれに何かできるわけではないけど、わかるよ、そうだよね」という、志磨遼平なりの不器用で素朴な優しさが感じられるようです。ぜひ静かな部屋で、歌詞をじっくりかみしめながら聴いてほしいです。

 

この曲に限らず、アルバム『バイエル』は全編を通じてコロナの時代と激しく共振するような、コンセプチュアルな作品になっています。なにせ1曲目のタイトルからして「大疫病の年に」ですから。

8曲目「不要不急」では、音楽を生業とする自分のことを「何の役にもたちはしない」「不要不急なひと」と自虐的に評しながらも、それでも自分が作るものを「不要不急なものだけでつくる 不要不急だけど きれいなうた」だとつぶやきます。ああ、なんてかっこいいんだ! 

決して無条件に楽しいアルバムではありませんが、陰鬱ななかにも穏やかな美しさがあって、落ち込んだ日にそっと寄り添ってニュートラルな気分にゆっくりと引き戻してくれるような、そんな魅力にあふれた一枚です。

 

ちなみにこの曲が収録された『バイエル』というアルバムは、完成までの経緯も興味深いです。

まず今年の4月に、アルバム収録曲のラフ・スケッチともいえる素朴なピアノソロの曲が、配信でリリースされました。

その後、ヴォーカルが加わったバージョンが作られ、さらに他の楽器のアレンジが加わり・・・というかたちで、アルバムに収録された最終形になったんです。

志磨遼平はバンドでヴォーカルやギターをやってきた人なので、ピアノソロの曲はたぶん正式には作ったことがないはずです。そういうこともあって、最初のピアノソロバージョンはとてもシンプル・素朴なものでした。打ち込みで作ってあるのかテンポも揺るがず一定で、正直言ってテクニカルな意味での面白さは無い作品でした。

しかし、そのピアノの素描からアレンジを加える過程をさらけ出すことによって、今回の一連の作品制作は、志磨遼平の  ピアノによる表現を習得していく過程、楽曲を創造・発展さえていくプロセスを目のあたりにできる、興味深いプロジェクトとなりました。

『バイエル』というピアノ教本の名前をアルバム(というか一連の作品群)のタイトルにした理由は、単にピアノ練習曲のようなスケッチを元にしているからではないわけです。まるでバイエルを習うときのような、学びと成長の過程を目の当たりにできるから、というわけですね。

どうしたらそんなコンセプトを思いつけるの?? 志磨遼平・・・ほんとにおそるべき表現者です!

 

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