小惑星探査機「はやぶさ」が地球に帰還して、日本中に一大フィーバーが巻き起こってから、いつのまにか丸2年たちました。
それ以来、はやぶさに関する本が本当にたくさん出版されました。
はやぶさプロジェクトを成功に導いた責任者、宇宙科学研究所の川口教授自身も、はやぶさに関する著書を何冊か出しています。
今回読んだのは、その川口氏の著書の1つです。
『「はやぶさ」式思考法』
著者: 川口淳一郎
出版: 飛鳥新社
この本は、はやぶさの技術的な面を細かく解説するものではなく、川口氏がはやぶさプロジェクトを通してつちかった物事の考え方を、一般の人向けに紹介するものです。
川口氏の書いた雑誌記事やインタビューは何度か目にしていますが、この方は最先端の研究者でありながら、一般の人にわかりやすく本質を伝える話し方が、本当にうまいです。この本を読んで、改めて感じました。
しかもあちらこちらに文学作品や古典をふまえた記述があったり、社会的な視点でコメントがされたりしていて(しかも根が研究者なためか、それがイヤミに感じません)、著者の視野の広さを感じます。
やはり一番印象深かったのは、最初の章に書いてある「減点法を止めて加点法にしよう」という提言です。
川口氏は、はやぶさプロジェクトを始めるにあたって、プロジェクトを承認して予算をつけてもらうために、文部科学省の偉い人に対してプレゼンテーションを行いました。
はやぶさは、計画当時まだまともに人工衛星を惑星に飛ばしたことがない日本が、小惑星という非常に小さい天体を目指し、さらにそこに着陸して表面の石を取り、なんと地球にまで持ち帰るという、とんでもなく挑戦的なプロジェクトでした。
一般に、日本では物事を始めるときに、とかくリスクを恐れる傾向が強いと言われます。「そんなことをして失敗したらどうするんだ!?(=もっと安全なことをやれor今のままでいいじゃないか)」 という意見が出て、挑戦にブレーキをかかりがちである、ということはよく指摘されます。
リスクを嫌う組織の筆頭であるお役所に、これほどチャレンジングなプロジェクトを認めさせるのは、まさに至難のわざだったことでしょう。
さて、文部科学省へのプレゼンの場で、川口氏は役人に何と言ったか。よく知られたエピソードだと思いますが、紹介します。
川口氏は、「はやぶさが小惑星の石を持って地球にかえってきたら100点の評価です」・・・とは言いませんでした。
その代わり、「電気推進エンジンが稼働したらプロジェクトの成果は50点、1000時間稼働したら100点、・・・で、無事地球に小惑星のサンプルを持ちかえったら500点です」 と言ったそうです。
全部500点満点のプロジェクトだから、途中までで失敗しても100点取れます・・・これは言ってみれば単なるハッタリというか、一休さん並みの強引なトンチです(笑)
もちろん川口氏も、これで 「ほうそうか、じゃあ100点超えるようにガンバレ!」 と言われるなどとは考えなかったでしょう。
ここでの川口氏の真意は、1つには何がなんでもやりたいという、プロジェクトにかける熱意を伝えることにあったと思います。
しかしそれに加えて、「世界レベルの成果を出すには、リスクを取って挑戦して行こう」と主張するという意図が、強くあったそうです。
はやぶさプロジェクトは、初めて尽くしのプロジェクトでしたから、「これが起こったら失敗する」「あれが起こるから危険だ」と減点法で考えだしたら、GOサインなど出せっこありませんでした。
だから、「こうすればできるのではないか」「これはダメだが、こうすれば良くなる」という加点法で、積極的に大きな挑戦をして行かなくてはいけない・・・私の理解では、それが川口氏の意図だと思います。
川口氏は決して無謀な挑戦を推奨しているわけではなく、事前に徹底的にリスクを考え抜き、対策を取るべしと言っています。ただ、リスクはあっても成功にある程度の見込みが見えたならば、GOサインを出す勇気や意気込みが必要だということです。これには私もまったく同感です。
・・・こうして、川口氏の意思は文科省を動かし、はやびさプロジェクトは無事、実施のはこびとなったのでした。
結局のところ、はやぶさのような奇跡的なプロジェクトでも、その成功を支えたのは、愚直で徹底的な準備、問題に全力で対処し諦めない粘り、大きな視野でゴールを決めてまわりを巻き込んでいく力などのようです。
あとは、常に前向きに、いい点や可能性を見つけ出して行こうというマインドでしょうか。
つまりこれって、世の中のあらゆる仕事の成功のコツと、まったく同じことですよね。人生には、裏技のようなものはまず無いものだなと、最近つくづく思います。
私は会社の上司から 「まずやって、やりながら考えろ」とか、「君の仕事では、何もしないのが最大のリスクだ」 と何度も言われてます。(その意味では理解のある上司です)
私のようにリスクを怖がる性格の強い人間は、ちょっと危険かなと思うほど思いきったアクションを取るぐらいで、ちょうどいいのかもしれません。
皆さんも、リスクに向き合うということについて、はやぶさプロジェクトの例からいろいろ考えてみてはいかがでしょうか。
最後に、ちょっとこれを見てください。
著者の川口氏の直筆サインです!
でも、私は川口氏と直接会ったことがありません。
それでは、どうやってこのサイン本をゲットしたと思います?
実は東京駅近くの「八重洲ブックセンター」に寄ったところ、「サイン本コーナー」というのがあって、著者のサイン付きの本が集められていたんです。
その中に川口氏の本もあった、というわけです。
都内の大きい書店では、たまにこういうサイン本を置いていることがあるんですよね。
もともとこの本を買うつもりはなかったんですが、気にはなっていたので、サイン付きということで思わず買ってしまったのでした(笑)