通販の Amazon の電子書籍(Kindle)コーナーでは、講談社や集英社などの大手出版社が出している電子書籍だけでなく、個人が作成・出版している本も多数販売されています。
Amazon は Kindle Direct Publishing (KDP) というサービスを提供していて、出版社とのコネがまったくない普通の人でも、文章さえ用意すれば非常に簡単に Kindle の電子書籍を作成し、販売を始められるようになっています。
当然ながらそうした本の中には、正直なところ「ハズレ」と感じるような本も少なくないのですが、最近読んだ個人出版の本の中でかなり面白いものがあったので紹介します:
この本は、著者のたっく氏が「余分なものを極力持たない生活」を実践した記録です。
最初に言っておきますが、私は典型的な「捨てられない男」です。
一度買ったものは、たとえ使わなくても「いつかは使うから・・・」「愛着があるから・・・」などと思って、よほどのことがないと捨てる踏ん切りがつかない。
結果、家の中はゴチャゴチャ。そういう人間です。
「ああ、たっく様、私はどうしたらいいでしょうか?」
・・・そういう気持ちでこの本を手に取りました(笑)
さて、たっく氏によると、私たちがあまりに多くの不要なものに囲まれており、そのせいで生活の質を落としているといいます。
まず、余分なものを買うせいでお金や保管場所が無駄になります。
家の中がちらかり、大事なものを見つけにくくなります。
そうした金銭的・物質的な問題だけでなく、意外と見落としがちなのがこんな問題です:
そのような(余分な)ものは、見るたびに一瞬ですが「ああ、これをどうしようかな」という気持ちになり、少しずつあなたの元気を奪っていきます。そして、本当に大切な人に優しくしたり、一緒に楽しく過ごす時間や余裕を奪っていきます
私が日々なんとはなしに感じていることを、実に適格な言葉で指摘されてしまい、ぐぅの音も出ません。
そう、この物が多いことによって生じる「余裕のなさ」というのは、ただでさえ余裕のない自分にかなりの追加ストレスを及ぼしているな、と思わされました。
実はこんな本を書いているたっく氏も、5年くらい前までは物が多い生活をしていたそうです。
しかし思い立って、最低限のものだけ所有する「必要十分生活」を始めた結果、いまは心身ともにとても身軽に生きていられるとのこと。
そのためにたっく氏がとった方針は、「日々の生活に明確なルールを設定して守る」ということです。
「何となくこう決めている」とルールは違います。曖昧な決まり事は、その隙間から沢山のものが漏れていって、いつしか巨大な山になります。
そのルールを作るのは非常に頭をつかう作業です。時には自分の常識を覆す、大きな発想の転換が必要になります。それは、知的なゲームであり、結果が目の前に見えてますから、一度うまくいくと考えるのが楽しくなります
この本には、彼が試行錯誤の末にあみだした、必要十分生活のための徹底的なルールが数多く示されています。
注意したいのは、こうしたルールは自分に合ったものを自分で考え出してこそ意味がある、ということです。たっく氏は、彼が紹介するルールを読者が単純に真似することを戒めています。
また、ライフスタイルに応じてルールを柔軟に変える必要があることも付け加えています。文章から察するに、たっく氏は奥さまとの二人暮らしのようですが、子どもができたらここに書いてあるルールをかなり変更することになるだろうなと思います。
そのルールの例を見てみましょうか。
置き時計は不要です。携帯でいつでも時間は分かります。机の上に時計を置かないと仕事に差し支えるという場合以外は、置き時計は捨てましょう。私は腕時計を外して机の上において、デスクワークが終わったらまたつけています。
私が普段ローテーションしているのは、パンツ3枚、シャツ3枚、靴下3足です。下着類はお風呂あがりに、ごく少量の洗剤で手洗いして、浴室にかけたロープに干しておきます。入浴中に漂白剤にひたしておくと、雑菌の繁殖による嫌なニオイもつきません。
(想い出の品はめったに見ないし使わないのに捨てられないので・・・)私がとった方法は、思い出の品をデジタル一眼レフで綺麗に撮影したあと、感謝の気持とともに処分するという方法でした。そして、その写真は私のパソコンのスクリーンセーバーになっています。
これらはほんの一部ですが、たっく氏こだわりのルールの数々を見ているだけで、「そういう考え方があったか!」という知的興奮があります。
いままでに整理や片づけに関する本を何冊か読んできましたが、片づけに伴う「知的興奮」に言及している本は初めて。言われてみると確かに、と納得してしまいます。
書いてある事例の数々は過激ですが、イヤミのない語り口のためか、読んでいると「自分もルールを作ってシンプル生活を始めてみよう」と素直に思ってしまいます。
物にあふれてなんとかしたいという人に良質の刺激を与えてくれる、楽しい一冊です。