ヒットチャート上位にのぼって来ないものの、根強い支持を集める女性ポップシンガー、安藤裕子をご存じですか?
ポップス好きの私の琴線にふれる曲をたくさん作っているんで、彼女のアルバムはたびたび聴いてきたんですが、いままで未聴だったアルバムを最近になって聴いてみました。
『大人のまじめなカバーシリーズ』 by 安藤裕子
cutting edge
2011年3月2日リリース
『大人のまじめなカバーシリーズ』という、逆にふざけてるような感じのタイトル(失礼^^)のこの作品は、彼女が生まれてからデビューするまでの間の名曲をカバーしたアルバムになっています。
それにしても、オメガドライブ、矢野顕子、薬師丸ひろ子・・・って、選曲 渋っ! 彼女は私とほぼ同い年のはずですけど、私の記憶にない人達も多く取り上げてます ^^
アルバムジャケットの写真や選曲がわりと懐古的なのは、彼女がこのアルバムのリリース直後に出産してママになり、自分の子どものころを振り返る機会があったから・・・かもしれないですね。
この作品の中で最高だったのが、小沢健二(指揮者の小澤征爾の甥ですね。念のため)の名曲のカバー『ぼくらが旅に出る理由』です。
ストリングスが加わった、豪華で流れるようなアレンジは、ほんとに最高です! 聴いているだけで、新しい出会いや経験を求めて、街へ、世界へと、飛び出したくなってきます^^
安藤さんの清楚系の落ち着いたたたずまいから、きっと透明感のあるキュートな歌声なんだろうな・・・と想像されがちですが、彼女の歌唱は意外にソウルフル! 歌い方にも、声が時おり裏返るような、独特の個性があります。
そんな彼女の個性的で表現力豊かな声が、ともすると甘ったるくなりそうなこの曲に、アクセントと芯の太さを与えていて good です。
この歌、あらためて聴いてみると、歌詞もとってもいいなあと思います。
一聴すると、長期の旅(長旅? 留学? 転勤?)に出かけることになった彼女と「ぼく」との別れを描いているように聴こえます。
でも、サビの部分の歌詞からはもっと一般的でスケールの大きなことを歌っていることが感じられます。
♪ ぼくらの住むこの世界では 太陽がいつのもぼり 喜びと悲しみが時に訪ねる
♪ 遠くまで旅する人たちに あふれる幸せを祈るよ
ここでいう「旅」というのは、単なる観光旅行だけでなく、日々のいろいろなチャレンジ、または人生そのもののことなのかもしれません。
それぞれの人がそれぞれの「旅」をする中で、出会いと別れ、喜びと悲しみが交錯する。そんな旅する人たちへエールを! この「一抹の悲しさ・寂しさを抱えつつ、前を見て生きていくぞ」という感覚、いいですねえ。
この歌詞を聴いていると、若いころに単身ヨーロッパに渡り、スクーターでかけ回った父・小澤征爾のおもかげを感じてしまいます。
今回のカバーが原曲にわりと忠実なアレンジだったこともあって、改めてオザケンが書いた曲自体の良さを感じました。
この曲を収録したオザケンのアルバム『LIFE』は、ほかにも「今夜はブギーバック」「ラブリー」など、90年代のいわゆる「渋谷系ブーム」を彩った名曲がずらっと揃っています。
私はブームが終わった後になってからこのアルバムを聴いたんですが、すっかりハマって何度も聴きまくりました。
今でも「ダッフルコート」という言葉を聞くとオザケンを連想してしまいます(・・・って、わかってくれる人いるかな? 笑)
オザケン未体験の人で「安藤裕子のこの曲いいな」と思った人、ぜひ遡って『LIFE』も聴いてみてくださいね。
『LIFE』 by 小沢健二
EMIミュージック・ジャパン
1994年8月31日リリース