私はこれまでの人生で、野球を習ったことは一度もありません。
正直言って、野球にはあんまり関心がありません(^^;
そんな私でも、落合という名前を聞けば、「現役時代に大活躍したバッターで、後に中日ドラゴンズの監督としても良い成績を残した人だ」という程度のことは おぼろげに知っています。だけど、それ以上細かいことは全く知りません。
今回紹介するのは、私とは接点が無さそうな人物、落合博満の著書『采配』です。
『采配』
著者:落合博満
出版:ダイヤモンド社
2011年11月17日
この本が発売された頃、私はたまたま雑誌『週間ダイヤモンド』を買ったんです。そうしたら、たまたまこの本の内容の一部が掲載されていたんですよ。ダイヤモンド社自身が出してる本なので、宣伝のためだったのでしょう。
その抜粋記事を読んで、「あ、この人ってすごく考えて監督をやってた人なんだな」「自分の仕事にも活かせるようないい事を言ってるな」と感じたんです。
「オレ流を貫くワガママな変わり者」というイメージで(笑)、さして興味のなかった落合という人物に、急に興味がわいてきたんですね。
結局そのときは本を買わずに終わったんですが、最近になってAmazonで電子書籍版がセールで安く売られているのを発見。遅まきながら買って読んでみた、というわけです。
感想をひと言でいえば、期待以上に面白かったです!
この本には、落合が監督の経験を積む中で考えてきた「リーダーにとって大事なこと」がつづられています。
この手の本って、自己啓発本にありがちな調子のいいフレーズばかり目立ったりして、どうも心に刺さらない・・・なんてことが結構あると思います。
『采配』はどうかというと、落合が実体験をもとに自身の頭で考え抜いたものを書いている、ということがよく伝わる書き方で、非常に迫力と説得力を感じました。
それに落合って、個々の経験から一般的に通用する知見を導き出して、それを言葉に落としこむのがとてもウマい人なんですね。今回本を読んで初めて知りました。
普段なにげなく私が感じていることを、とても明快な言葉で表現してくれていて、「そうそう、おれが薄々感じてたことって、実はこういうことなんだよ!」と思わずひざを叩いてしまうことも、たびたびありました。
この本の中で、私の印象に残った箇所をいくつか引用してみます。
孤独に勝てなければ、 勝負に勝てないのだ。孤独に勝つ強さはどこから生み出されるのだろうか。 私は「野心」を抱くことではないかと考えている。
上司や監督に「嫌われているんじゃないか」。 そう考え始めた時は、自身を見る目が曇り始めたサインだと気づいてほしい。
これは私も経験がありますね・・・。上司の指示やコメントの意図を正しく理解しているかどうか、考えることは重要でしょう。
でも、「好き嫌い」というよくわからない部分に、仕事がうまくいかない原因を求めていくと、結局自分の至らなさを見逃すことになると思います。
スランプからなるべく短い期間で抜け出すためにはどうするか。試合前の打撃練習をする際、打撃投手や捕手に私の印象を尋ねてみるのだ。
これは耳に痛い・・・!
他人のアドバイスは意外な発見を与えてくれるはず。
なのに仕事で上の立場に行くほど、プライドが邪魔をするのか、惰性で済ませたくなるからか、こういうことを素直にやらなくなりがちだと思います。
ミスは叱らない。 だが手抜きは叱る。注意しなければ気づかないような小さなものでも、「手抜き」を放置するとチームには致命的な穴があく。
深い・・・名言だと思います。
組織を統括する立場になった者は、まず部下たちに「こうすればいいんだ」という方法論を示し、それで部下を動かしながら「やればできるんだ」という成果を見せてやることが大切だということだ。
「プロだから見なくてもわかる」という人もいるようだが、私自身は「プロだからこそ見なければわからない」ものだと実感した。 プロだから見なくてもわかると言う人は、自分が経験した野球で時間が止まっている。どんな世界でも、外から見える姿に大きな変化はなくても、内部ではさまざまな進歩や変化があるはずなのに、それを見ようとはしない。そして、「昔はこうだった」という論点でしか批評できない。
チームリーダーという存在によって、競争心や自立心が奪われていくことは、組織においてはリスク以外の何物でもない。
いい結果が続いている時でもその理由を分析し、結果が出なくなってきた時の準備をしておきたい。そして、負けが続いた時もその理由を分析し、次の勝ちにつなげられるような負け方を模索すべきなのだ。 組織を預かる者の真価は、0対10の大敗を喫した次の戦いに問われる。
仕事で10戦全勝なんてムリ!
長期的な目標達成のためには、目先の勝ち負けに一喜一憂し過ぎてはだめということ。
まったく同感です。
新人にアドバイスする場合に気をつけなければいけないのは、どこまで基本を理解しているかを感じ取り、足りない知識があれば伝えてやること。つまり、あくまで基本の部分に関してコミュニケートすることなのだ。
ところが、有望な新人が自分と似たタイプだと思い込んだコーチや先輩は、早く一人前になってほしいという親心で、その先の方法論の部分にまで言及してしまう。
チームメンバーの強みを正しく理解するというのは、本当に難しいものです。自分の方法論を教え込み過ぎると、良さを消してしまう危険性があるでしょうね。
野球界に限らず、組織の中である程度の数の人をまとめる立場にある人に、広くお薦めできる刺激的な本だと思います。