職場の後輩が読んでいたので興味を引かれて、久しぶりに小説を読みました。
冲方丁(うぶかた・とう)の「天地明察」です。
この小説のことはまったく知らなかったんですが、第7回の「本屋大賞」をはじめとしてたくさんの賞をとった作品だそうで、今年の秋に映画化までされるらしいです。
それにあわせるかたちでつい最近文庫化されたようで、本屋ではどーんと平積みになってました。
冲方丁 (うぶかた とう)
『天地明察(上・下)』
角川文庫
これがまた、一風変わった時代小説であり、爽快な青春小説でした。
ネタバレを回避するように気をつけつつ、ちょっと内容を紹介しますね。
物語の主な舞台となるのは、4代将軍・徳川家綱の時代の江戸です。
由緒ある「碁打ち」(幕府のお偉いさんの囲碁の相手をする仕事)の家系に生まれた主人公、渋川春海(安田算哲)は、碁打ちとして身を立てる気になれず、将来の道を見いだせないもやもやした日々を過ごしていました。
春海は算術(数学)に心底ほれ込んでいます。ヒマを見つけては神社に飾られている算額絵馬(投稿問題)を解きにいったり、算術を教える塾にあがりこんだりしています。
そんな春海が、ひょんなことから国家をゆるがす一大プロジェクト、「暦の改訂」に巻き込まれていきます。
江戸時代も4代将軍の治世になると、武力がものを言う戦の時代から、平和で安定した時代へと、社会が移り変わってきます。
その流れの中、世の安定を確実なものとするためのアクションの1つとして、暦の改訂が行われることになるのですが、これが実は世の中に非常に大きな波紋を及ぼすことになります。
春海はお得意の算術と、天体観測とを駆使して、頼もしい仲間たちとこのプロジェクトに挑むことになりますが・・・ここから先は読んでのお楽しみです(笑)
主人公の春海はとにかく純粋すぎるほど純粋ないい奴なんですが、それを取り巻く協力者たちも、気持ちのいい人物ばかりなんですね。
彼らの算術への純粋な関心と熱意が、やがて世の中を動かして行くというストーリーは、青春物語として胸熱くなるものがありました。
作者の文体はいい意味でドライで、それが昔からの因習にとらわれず、新しい時代を知性をもって切り開こうとする春海たちのみずみずしい感じによくマッチしていて、読後感がとにかく爽やかです。
ちなみに私は仕事がら数学や物理を使うことがありますが、この歳になってだいぶ自分の頭の限界を感じてきて(笑)、素直な熱意をもって数学などに向き合えなくなっている気がします(あきらめかけてる?)。
けれど、この本で春海の一途な一生をおいかけていくうち、高校生のころに感じた数学などへの純粋なあこがれや興味を、あざやかに思い出させられ、ちょっと心に火を入れられた感じがしました。
またこの小説は、ビジネス小説的な楽しみ方もできると思います。
下巻では、幕府や朝廷に綿密な根回しをしたり、それでも発生してくる失敗や不幸に春海たちが智恵を結集してぶつかっていきますが、これは結構リアルなビジネスの場面を感じさせます。
また、常識にとらわれずに、これからの時代に必要な手を大胆・冷静に打っていく、保科正之たちの卓越したリーダーシップにも、考えさせられるものがあります。
荒削りな感じもちらほら見える小説ですが、それをまったく気にさせない勢いと清々しさにあふれた小説です。