最近読んだ本 音楽

『ラジオのこちら側で』 by ピーター・バラカン

皆さんは、たとえばニッポン放送なんかのおしゃべりメインのラジオ番組ではなく、FMの音楽中心のラジオ番組を熱心に聴いた経験はありますか?

私はありません(笑)

小さい頃からテレビ文化に染まってましたし、ラジオ番組をチェックするという習慣がありませんでした。

そんな私が今回読んだのは、こちらの本です:

 

『ラジオのこちら側で』
ピーター・バラカン:著
岩波新書
2013年1月30日

 

「ラジオに特別な思い入れがないくせに、なんで読んだんだ!?」 と突っ込まれそうですが(ごもっとも!)、それはピーター・バラカン氏の著作だからです。

 

音楽好きの方なら知らない人はいないんじゃないかと思いますが、ピーター・バラカンはイギリス出身のラジオDJ、ブロードキャスターです。

日本に住んでもうすぐ40年になろうかという彼は、大手音楽出版社である現シンコー・ミュージックに就職して日本にやってきました。

それ以来、ラジオやテレビ、出版物を通して、ロック、ブルース、ワールドミュージックを中心に、世界中のおもしろい音楽を紹介し続けてきました。

私も、ラジオ番組を聴いたことこそないものの、CSのテレビ番組などでたびたびバラカンさんの番組を見ていましたし、雑誌や本などでも彼の書いた文章をよく読んできました。

この本は、そんなバラカンさんのライフワークともいうべきラジオの音楽番組を軸にした半生記であり、音楽遍歴の記録です。バラカンさんがしゃべった内容を、他の方が文章に起こすというスタイルで書かれています。

 

私はラジオの熱心なリスナーでは全くありませんでしたが、だからこそ、バラカンさんが語るラジオ発信者の立場からの経験談は、未知の世界の話ばかりで興味深いです。

たとえば、ちょっと面白いなと思ったのは、NHKのラジオ番組をやっていたときの話です。

NHKでは「商品名は放送で流されない」という暗黙の了解がありました。しかし、たとえば車をテーマにした名曲を紹介する、という企画を実行するとなると、どうしても特定の商品名が歌詞やタイトルに入ってくることがあります。

いろいろ調べてみると、NHKの放送規約では、商品名を放送してはいけないとは書かれておらず、「営業広告に相当する行為」を禁じているということがわかったそうです。

それで結局、車に関する曲を紹介したとき、その中に車名などが出てくるのは、明らかに営業広告ではないとの判断から、その企画はGOとなったのだそうです。

(ただ、私の記憶が確かなら、山口百恵が紅白で「プレイバック パート2」を歌ったとき、「真っ赤なポルシェ」という歌詞を「真っ赤な車」に買えて歌わさせられたはずですが(なんかマヌケな歌詞になるなあ^^;)、あれは何だったんでしょう。バラカンさんが言っているような議論まで至らずに、慣例に従って避けたんでしょうかね)

ちなみに、CDのレーベル名を言うのは確実にNGだそうです。いやはや、公共放送は厳しいですね・・・

 

本文中には、あちらこちらに当時の音楽のネタやバラカンさんのおすすめ曲などが書かれていて、ラジオの興味がない人でも、音楽好きにとっては素敵な本になっています。

各章の終りには、1970年以降を10年ごとに区切りって、それぞれの10年間におけるバラカンさんの私的おすすめ10曲もあります。聞いたこともないようなワールドミュージック系の作品が取り上げられていますが、解説を見ていると聴いてみたくなってきます。

音楽好きの兄貴のよもやま話、といった感覚で楽しめる一冊だと思います。

 

ちなみに私は全く知らなかったんですが、バラカンさんは昨年、洋楽中心のFMラジオ番組で有名な「Inter FM」の執行役員に就任したそうです。

そして、「ラジオに魔法を取り戻す」と題したキャンペーン活動を積極的に行っているそうです。

バラカンさんは、ラジオが一時期持っていた輝きを失った理由の1つとして、良い音楽を紹介する番組が作られなくなっていること、そうしたことができる人材が育っていないということがあると言います。

そしてYoutubeや音楽配信全盛のいまの時代であっても、リスナーに近いところでそうした魅力的な情報を提供することによって、ラジオが音楽との有力な出会いの場として、再び輝くことができると考えているようです。

バラカンさんの静かでありながら熱意を秘めた語りを読んで、「この歳にしてはじめてラジオの音楽番組をまともに聴いてみるのも悪くないな」 そんな気にさせられました。

 

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