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ビートルズの曲を素直に楽しみたい私・・・『増補完全版 ビートルズ 上・下』 by ハンター・デイヴィス

のっけからこんなことを言うのもなんですが、私はビートルズがそれほど好きなわけではありません ^^;

物心ついたころには、ビートルズは既にとうに解散して伝説上の存在になっており、ジョン・レノンもこの世にいませんでした。

結成当初は大人たちが眉をひそめて見ていたビートルズですが、1960年代後半の創作活動に対する高い評価が確立していて、私が子どものころには誰もが「ビートルズはスゴい!」 と言う状況になっていました。

だけど、そうしたビートルズを讃え、神格化する言葉の数々が、私がビートルズの音楽に純粋に触れることを邪魔してきたように思います。

私はなんとなく 「ビートルズをすごくて当然。そう思わないやつはオカシイ」 というような世間のオーラを感じてしまい、純粋に楽しめないのです。

好きな曲ももちろんあるのですが、どうしても「ありがたいものを拝聴する」というような距離感を抱きながら接してしまうんです。

それは今でも基本的に変わっていません。

これはビートルズが悪いわけでも、世の中が悪いわけでも何でもなく、純粋に私自身が勝手に距離感を持っているだけなんですけどね。でもこんなのって、私だけでしょうか。

 

というわけで、私はビートルズのオリジナルアルバムはごく一部しか聴いていませんし、彼らの結成から解散までの出来ごとについても、あまりよく知らないんです。

ところがひょんな思いつきから、今月3日に開催された「MTVロック検定」というものを申し込んでしまいました。

せっかくいい機会なので、ビートルズについてもっと知ってみたいと思い、2009年に出たリマスターCDを全作品借りたり、本を読んだりしてみました。

前置きが長くなりましたが、その本というのがこちらです。厚い本なのでロック検までに読み終わらず、つい先日読み終えました:

 

『増補完全版 ビートルズ 上・下』
ハンター・デイヴィス:著
小笠原豊樹・中田耕治:訳
河出文庫
2010年7月20日初版
  

 

この本は、「The Only Ever Authorized Biography」 (唯一の公認伝記本)という英語の副題からわかるように、著者のハンター・デイヴィス氏がビートルズ本人や関係者の正式な許可を受けたうえで、ビートルズがまだ現役だった1968年に刊行された書籍の邦訳版です。

本文に書かれている内容は、メンバーの誕生から1967年頃までの出来ごとまで。特に、全体の実に1/3くらいがビートルズ結成前のアマチュア時代に割かれています。

正直、デビュー以前のビートルズに関しては全く知らなかったので、リヴァプール時代の悪ガキっぷりなどは新鮮で面白く読みました。

ジョンなんて、イマジンしか知らない方の中には夢見がちな草食系男子(笑)というイメージを持っている人もいるかもしれませんが、実際かなりトンガった若者だったことがわかります。

 

また、正直に告白しますが、マネージャーとしてビートルズを切り盛りした男、ブライアン・エプスタインのことを、私はこの本を読むまでまったく知りませんでした(笑。よくこれでロック検定2級を受けたもんだ)

彼はそれまでやりたい放題のステージを繰り広げていたビートルズに、スーツを着させ、ステージ・マナーを守らせ、仕事のマネジメントを徹底しました。

そのようにして、ビートルズのクリーンでシュガーなイメージを前面に出し、ビートルズのより一層の成功を演出したブライアンの手腕は、さすがという感じです。

(今度、ベネディクト・カンバーバッチ主演の、ブライアンの伝記映画が公開される予定です)

 

そしてメジャーデビュー後、世界ツアーをしていた前半期の騒ぎがいかに壮絶だったか、この本でよくわかります。

たとえばファンが実家にやってきて勝手に家へ上がりこんだり、家の物を持って行ったりする。

メンバーはファンにもみくちゃにされて殺されそうになるわ、一歩外に出るとファンが押しかけるのでホテルに缶詰になるわ・・・。

ガール・フレンドや奥さまは、特に女性ファンからしょっちゅう脅迫状が届いたり、危害を加えられたり。

もはや集団ヒステリーとでも言えるようなすごい有り様だったようです。

ビートルズは人気絶頂のさなかの1966年を最後にライブ活動をいっさいやめ、アルバム制作に集中するようになりました。これだけ大変なことが何年も続いたら、そりゃあそういう決断になるよなあ、と深く納得しました。

これは、ビートルズがスゴかったというのもあるでしょうけど、1960年代という時代が持っていた熱気のなせるわざでしょうね。今後、おそらく二度とこんな騒ぎを世界規模で巻き起こすミュージシャンは出てこない気がします。

 

この本では、ビートルズの音楽的な特徴や先進性についてほとんど触れられていないし、解散間際のドロドロはいっさい書かれていません。そのへんを求める方には別の本をおすすめします。

でも、異常な熱気を持った時代をリアルタイムに記した証言として、ビートルズに関心のある人には面白く読めると思います。ちょっと分厚いですけど。

この本を読んで、彼らが人間離れした偉人でも何でもなくて、不完全で人間くさいヤツらだったんだなということが具体的にわかり、今までよりは構えずにビートルズの音楽を楽しめそうな気がしてきました。

 

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