皆さんは「文系卒の人は理系卒の人よりも平均年収が高い」という説を、耳にしたことはありませんか?
私も、どこでだったか忘れましたが『文系卒は高収入』説を聞いたことがあります。
そのとき私は、たいして深く調べずに「そうかもなあ」と納得してしまいました。
というのも、銀行や証券、弁護士や会計士などの高収入職種は典型的な文系職種というイメージでしたし、経営学を学んだ文系学生はビジネスに直結するスキルを学生時代に身に着けられて有利なように思えたので。
しかし、この『文系卒は高収入』説ははたして本当なんでしょうか・・・?
このテーマに関する興味深い報告が、電子情報通信学会の通信ソサイエティというところが出している会誌「B-plus」の2014年春号(少し前の号ですが)に掲載されていました。
同志社大の浦坂教授による「文系・理系 どっちが得か ~所得比較を中心に~」という、まさに直球という感じのタイトルの記事です。
(記事は無料でここで読めます → http://www.ieice.org/~cs-edit/magazine/archive_2013.html )
浦坂氏の記事によると、このような説が広く認識されるようになった大きなきっかけは、大阪大学の松繁教授らの2004年の研究なのだそうです。
その研究によると、「文系出身者の生涯賃金は、理系出身者のそれより約5000万円高い」という結果が出たそうですが、これがメディアで広く取り上げられ、一般に知られるに至ったのだそうです。
ただしこの研究は、いわゆる「旧帝大」と呼ばれる国立大学の学生を対象としており、また理系の学生として工学部だけを調査対象とするなど、偏った条件のもとでの比較だったそうです。
そうなると、もっと一般の文系卒と理系卒を比較しても同じことがいえるかどうか、疑問の余地があります。文系は理系よりも上位層と下位層の年収差が激しいということも聞きますし・・・。
そこで浦坂氏らは、インターネット企業のgooリサーチと協力して、ネット上での調査を行ったそうです。
詳細が気になる方は上位リンク先の記事を見て頂きたいんですが、興味深い点だけ引用します。
まず、調査に応じた社会人1,600人(うち8割が男性、4割が理系)を、大学の出身学部によって文系、理系に二分して平均年収を出したところ、
文系 → 583万円
理系 → 681万円
だったそうです。理系のほうが100万円も高いというのは、かなり驚きの結果です。
面白いのは、いわゆる難関大学ほど文系・理系間の年収差は小さくなる傾向が出ていることです。
ですので、浦坂氏の調査は、阪大の松繁氏の調査と真っ向から対立するように見えますが、実は観点をそろえると似た結論に落ち着いているのかもしれません。
もう1つ気になるのは、経済系学部(文系ですね)の出身者2239名に対する別の調査結果です。
これによると、大学入試のときに数学の試験を課された人は、課されなかった人と比べて平均で107万円も年収が高かったそうです(1983年~1999年の卒業生の平均値)
このことから、近視眼的に関係なさそうな科目を切るような教育(履修)のしかたに疑問を呈しています。
調査報告の元論文を読んでいないので強いことは言えませんが、この調査、かなりつっこみ所は多いと思います。
たとえばオンラインの調査の信ぴょう性は、どうなんでしょうか? 理系のITギークの回答が目立つ格好になっていないでしょうか? また、回答者が極端に男性寄りになっているのも気になります。
また、もしアンケート実施に先立って「理系科目に関する調査です」とことわりを入れていたとすれば、数学が苦手の理系アレルギーな学生はそもそも調査に協力しなかった可能性があります。
このようにサンプルの偏りは少なくないと思われます。
しかしそれでも『文系卒は高収入』説が単純に正しいわけではない、ということは言えるんじゃないでしょうか。
1つ注意しておくと、著者は「高収入だから理系を選ぼう!」と主張しているわけではないということです。
(学会誌サイドはそう主張したいでしょうけど^^)
経営学、経済学、会計、コンサル、さらに最近はやりのビッグデータ関係の統計学など、文系出身者の専門職でも 数学や理系的素養が必要となるケースが増えています。
そのような大局的な点に目がいかず、「文系だから数学いらないっしょ」という短期的で狭い視野で理系科目を捨てることが高校時代に行われているとしたら、それは学生にとっても日本にとっても不幸ではないか。
そうしたことのほうが、著者の主張のキーのようです。